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2010年10月13日 (水)

父のこと(9)

8月12日に父の容態が悪化したと連絡を受け、驚いた私は
急いで日赤病院へ向かいました。

それまで父は他の5人の患者と一緒に大部屋にいたのですが
容態が悪化したことで前夜から個室に移されていました。

父は相変わらず点滴と酸素マスクをつけていましたが、
さすがに前回よりもきつそうで、横にいた既に母は号泣していて、
なんと声をかけていいものか分かりませんでした。

ユウリさん、タカシさんもかけつけてベッドの周りで父を
見守りました。

手足を動かし、口をあけたまま酸素マスクをつけた父は
ただただきつそうでした。
何度か寝返りをうちたそうにしていましたが、体を動かすのも
ままならなかったので、その都度母や私たちが手伝って体勢を
変えてあげました。

それから母とユウリさんと私とで交代で病院で付き添うことに
しました。
私も一旦家に戻って自宅のやることを済ませ、病院での
付き添いに準備な物をそろえ再び病院に向かいました。

母はとにかく動転してしまって感情が不安定で、ちょっとした
変化でうろたえたり泣いたりと、母も相当きつそうでした。

タカシさんも体育教師で陸上部顧問をしていたこともあり
仕事の傍らこまめに病院に様子を見にきてくれました。
私はちょうど8月のお盆休みに入っていたので、そのまま
連休は父たちと一緒に病院で過ごすことができました。

父は話すこともできなくなっていたので、どこが苦しいのか
どこが痛むのか分からなかったけど、とにかくどこかを
痛がっていたし苦しがっていました。

あまりの痛みと苦しみに耐えられない様子だったので
医師はモルヒネで痛みを和らげることを提案し、母や
私たちもそれに同意しました。

モルヒネを投与することで痛みは感じなくなるけれど
父の意識は遠のいていきました。
それでも父が苦しむよりはいい、と皆思っていました。

夜中も母とユウリさんと私とで交代で父をみていました。
正直とてもつらかったです。
心理的にもつらかったですが、やはり病院のイスの上で
仮眠をとるにもろくに眠れず、足のむくみもひどくなる一方で
横たわることもくつろぐこともほとんどできず、体力的にも
きつかったです。

父がモルヒネを投与されてから危篤といえども小康状態が
続きました。
とはいえ、時々意識が戻るのか、手足を動かし何かを訴えて
いるかのようにつらそうな表情をしていました。

12日に連絡を受け病院にいき、その晩を過ごし、朝が来て
13日の昼をすぎ、夜が来て、夜中を過ごし、14日の朝が来て
・・。

私もほとんど病院ですごし、一時的に家に帰り、またとんぼ返りで
病院に向かう、といった日々でした。
朝が来るまでの一日が長いようで短いようで時間と曜日の感覚が
麻痺しながらも、病院の窓の外が白々と明るくなってくる朝には
また一日を迎えた、、という気持ちでした。

私たちは当たり前のように明日を迎えると思っているけれども
今目の前にいる父には明日が来るのかさえも分からない状態
でした。

父もきつかったでしょうが、周りも本当にきつかったと思います。

それでもユウリさんは強かったです。
母はやはり一番感情的に泣いたりうろたえたりして精神的に
疲れただろうし付き添いなどの世話でも必然的に疲れるので
仮眠もそこそこできていたようですが、ユウリさんは夜もほとんど
寝ずに父のことをみていました。

ユウリさんが小学生の時に父と別れ、それ以降は一緒に
暮らしたことがないらしいのですが、その分優しい父への
思いは強かったのでしょう、実の父と一緒にいる時間を
取り戻すかのように夜もほとんど眠らず父の汗をふいたり
体をさすったりしていました。

私も父が苦しそうにするたびに、父の手を握り体をさすりました。
父の手は少々冷たく悲しい感じでした。
今までほとんど触れたことのなかった父の手でした。
こんなことになって始めて手を握ることになるとは、皮肉なことです。

夜中も母は泣いたりしていましたが、父にたくさん語りかけて
いました。

「おとうさん、はやく家にかえろうね」
「パークゴルフが待っているよ」
「おとうさんにたくさんいろんなところに連れて行ってもらって
 嬉しかったよ」

母は父の手やあたまをなでながら歌も歌ってあげていました。
母はとても父のことが好きでした。
父も母のことを好きだったのだろうと思います。
幸せな夫婦だと、私からみてしみじみ思いました。
再婚でも本当のパートーナーとめぐり合い当人達が幸せであれば
それもありなのだと思いました。

父は体育教師をしていただけあって、体力があったのでしょうか、
12日に医師から今夜が峠です、と告げられてからも3日間は
夜を越えました。

ですが、一日一日、時間が過ぎるにつれ、父の手足が紫色に
なってきて、前日までは手足をかすかに動かしていたのがほとんど
動かさなくなりました。

食道がんの影響もあったのでしょうが、父の右の肺も機能しなく
なっており、それでひどい呼吸困難と炎症を起こしていたのでした。

少し呼吸が小さくなることが時々あり、そのたびに、母は
泣きじゃくって「おとうさん、おとうさん!おきて」と叫びました。

母の呼び声に時々びくっとして目を少し開けていた父。

たぶんこの3日間父は三途の川を渡りつつあったのでしょう。
それでも母の願いと叫び声で現世に呼び戻され、3日間
私たちのもとに留まることになったのだろうと思います。

父の意識はほとんどありませんでしたが、13日の午後、病室の
テレビをつけてあげました。

夏の高校野球、甲子園で熊本の「九州学院」2回戦の試合が
放送されていたからです。
父はスポーツ観戦が好きで、しかも「九州学院」は実の息子さんで
あるタカシさんの出身高校でした。

おとうさん、九州学院の2回戦で勝利したことはテレビから
伝わったでしょうか。歓声は聞こえていましたか。

8月15日の午後1時すぎ。

ほとんど動かなくなった父は小さな呼吸を終えるようにして
病院で息を引き取りました。
母と過ごした家に帰ることはできませんでした。

母やユウリさん、タカシさん、私たち、孫達に見守られて
父は病気の苦しみから解放されました。

父が体調をくずしてからあっという間でしたが、長患いをするでも
なく、苦しむ期間がそれほど長くもなく、結果的には悪い終わり方
ではなかったよね、と皆思うことにしました。

死までの時間が短かければ短いほど、覚悟ができてないほど
やり残したこともあるだろうし、無念だったかもしれないけども
父の年齢からしても充実した人生はほぼ送れたのではないかなと
私は思います。
ただやはり「もう少し生きていてほしかった」という気持ちは
父を思う人は誰にでもあったと思いますが。

酒、たばこ、スポーツ、パークゴルフ、猫、田舎ぐらし、母、
カメラ、木工、カラオケ、宴会、仲間たち、etc

たくさんの「好きなもの」を堪能した父を尊敬し、母や私を
可愛がってくれた父に感謝しています。

ありがとう。おとうさん。

 

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長々と書いてきた父のこと、これで一旦終わりたいと思います。

私の心に今後も父は存在し続けますが、私も歳を追ううちに
少しずつ記憶が定かではなくなっていくと思います。
記憶というものはどうしても少しずつかすんでいくし、消えていくもの
もあると思います。

ここに書き留めること少しでも父のことを再び鮮明に思い出せたら
いいなと思います。

ありがとうございました。

これからも明日という不確実な日が毎日訪れますように。

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コメント

お疲れさまでした。
覚えているようでも段々と記憶って薄くなっていくんですよね。
たまに気になってこの記事を読み返す時、きっとお父さんも笑顔でそばにいてくれていると思います^^

投稿: うめ | 2010年10月15日 (金) 00時20分

うめちゃんへ

ありがとう。しつこいぐらいに書きました。(途中ここまで書かなくてもいいんでわ??何のために書いているのか私は?と書くのを断念しそうになったけど)

でも思えば父との最初の出会いは高校2年生ぐらいのとき。
幼少時代は実父の存在を知らぬまま過ごしてきたのでそのブランクだけが自分にとって膨大で、その分、亡くなった父(義父)に対しては当初やはり「他人」という心の壁があったのだけど、最初の出会いまでさかのぼってみると、気づかない間にずいぶんの長い時間が経過していて、父と関わった年月も、生まれて成人するまでの間を過ごしたのと変わらないぐらいの時間を過ごしてきたんだな~・・とあらためて時間の長さを感じるとともに、自分にとってはもはや「他人」ではなく本当に「父」だったのだなーと思いました。

何よりいつも気丈で頑固な旦那が仮通夜~葬儀の間、何度も泣いていたのを見て父との絆がここにもあったのだなと思いました。
父はパソコンのことで旦那をよく頼ってきて、旦那も父にはよく面倒をみてあげていたので信頼関係は私以上だったのかもしれないです。

あらあら、また長くなっちゃいました(汗)

いろんな思いは言葉や文字だけでは語りつくせないですね。

投稿: yacco | 2010年10月16日 (土) 10時48分

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