« 無題 | トップページ | 父のこと(9) »

2010年10月10日 (日)

父のこと(8)

腕には点滴をして、口には酸素マスクをつけて痛々しい父を
見るのはつらいものがありました。

意識はあるものの、眉間にしわをよせて苦しそうに呼吸を
している父とは全く無関係のように病室の明るい窓から
見える街並みがきれいでした。

日赤病院に転院してすぐに、更に詳しい検査を受け、
その結果についての医師からの説明を母が聞きました。

私は母からの連絡でその結果を聞きました。
それが8月9日月曜日の夜でした。

食道がんであることは前の病院で判明していましたが
その後の具体的な進行状況や治療法について
説明があったようで、医師の説明によると、その時点で
父の余命は1~2ヶ月ということでした。

がんと分かった時の状況から、なんとなく末期がん
のように聞かされていたので、父はひょっとして
助からないのだろうか、生きる時間が限られているとしたら
1年だろうか、半年だろうか、などと実感がないままに
そんなことを心とは別の頭の中だけで考えていたのですが
1~2ヶ月というそれ以上に短い余命があまりにも短すぎて
まるでうそのようにしか思えませんでした。

母はかなり沈んでいました。
そして父が亡くなることについて、亡くなった後のことについて
電話口で話していました。

父が亡くなるなんて縁起でもない、まだそんな話をするなんて
早計な、とも思いましたが、母は母なりに、自分の心の動揺を
少しでも抑えて、この認めたくない現実はあきらかに現実
なのだと自分に言い聞かせているのかなとも思いました。

助かるかもしれない、がんなんて嘘だったかもしれない、
死ぬなんてまだまだ先のことだろう、なんて変に期待して
それがあっさり裏切られたときに自分が受ける傷やショックが
大きいことを想像できるから、あえて期待しないように、
父がこの世からいなくなるいうことは誰もが認めたくはないけれども
一方でその心積もりはしておかなければならないという、複雑な
思いがあるのだろうと察しました。

父があと1~2ヶ月と聞いて、実感がないながらも私もショック
でした。
また、父が亡くなったときのこと、父が亡くなった後の母のこと
など現実的なことも含めていろんなことがぐるぐる頭の中をめぐって、
自分こそ不謹慎だと思いながらも、それだけ自分にとって
遠いところにあった「死」というものを身近に意識させられたのかも
しれません。

これまでも知人、同僚の親や親戚などの死で葬儀に出向いたり、
訃報を聞いたりするたびに悲しい気持ちになっていましたが、
それでもやはりその「死」と自分との間には1枚の壁があったように
思います。

ですが、自分にとって本当に近い人の「死」というのは同じものでは
ないように思えました。
きっと他の人も同じだと思います。
他の人にとってはその人の家族や身近な人、大切な人の死は
特別であり、悲しみも特別なものだと思います。
そうやって皆大切な人の死を見送って乗り越えていくものなの
でしょうね。

父自身は自分が今病気で苦しいのは十分認識しているけれども
自分が癌に侵されていて「死」が目前に立ちはだかっていること
まではおそらく知らなくて、もしそれが私だったらどうなんだろう、
自分の命が残りわずか、と知ったらどうだろう、その事実を認め
られるのだろうか、それとも知らされずに終わるのだろうか、
などと「死」について「余命」について考えていました。

そして、以前読んだ本「ライフ・レッスン」を再び思い出して
本棚からひっぱりだして再びその本を読み始めました。

       「ライフ・レッスン」

     著者 :エリザベス・キューブラー・ロス
         デーヴィッド・ケスラー
     発行元:角川文庫

       200402000414_2

紹介文:
ほんとうに生きるために、あなたは時間を割いてきただろうか。
終末期医療の先駆者が、人生の最後で遂に捉えた「生と死」の
真の姿。
「死に直面している人たちはいつも、大いなるレッスンをもたらす
 教師だった。
 生がもっともはっきりみえるのは、死の淵に追いやられたそのとき
 だからだ。
 そのレッスンの数々は、人間の生にかんする究極の真実であり、
 いのちそのものの秘密である」
終末期医療の先駆者が静かに語る、人生の十五のレッスン。

夜、スタンドライトをつけてその本を読みながら眠りについた
その翌日の朝、8月12日に母から電話がありました。

父の容態が急変した。危篤になった、と。

死について考える間もないぐらいにその時は早く訪れてきました。

 

 A0800_000261_m

    
     

|

« 無題 | トップページ | 父のこと(9) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/139811/36887672

この記事へのトラックバック一覧です: 父のこと(8):

« 無題 | トップページ | 父のこと(9) »